男性は自分の経済力を気にしますが、相手女性の経済力にはあまり頓着しません。逆に、女性は自分の経済力を等閑視しながら、相手男性の経済力にはこだわります。
「男は外で稼ぎ、女は家事と育児を担うべし」。こうした価値観が根強いからです。頭ではそれが時代遅れとわかっていても、実際にとらわれずにいるのは容易ではない、というところが現代人の不幸と言えるでしょう。
その結果、男性は「自分の収入では妻子を養うのは無理」と諦め、女性は「相手男性には高収入の人を希望」と高望みすることになります。
経済的理由というよりは経済的思い込みによって、みずから結婚を遠ざけている男女が、多く見られるようになりました。
そこで今回は、そうした思い込みを解消するのに役立ちそうな、面白い概念を紹介しましょう。
貧困や格差を論じるときに、等価所得というものがよく使われます。これは世帯所得を世帯人数分に割り振った額ですが、その計算がなかなかユニークです。たとえば、1人暮らししている年収300万円の人の等価所得は、当然ながら300万円ですが、2人暮らしで世帯所得300万円の場合の等価所得は、
300÷2=150
ではなく、
300÷√2=214
と計算します(√2=1,4とする。以下同様)。
つまり、等価所得とは、世帯所得を「世帯人数」で割った額ではなく、「世帯人数の平方根」で割った額となります。
なぜこんなややこしいことを、と思うでしょうか。ちょっと考えてみると、すぐに合点がいくと思います。1人暮らしが2人暮らしになったとき、家賃や光熱費が2倍になるでしょうか。2倍の量の家具が必要になるでしょうか。もちろんそうはなりません。むしろ、世帯人数が多くなればなるほど何もかもが安上がりになるのは、肌感覚として理解できるでしょう。その経済効率の上昇を加味した結果、「世帯人数の平方根」で割るという計算になっているのです。
言うまでもなく、平方根にする妥当性は厳密には証明できませんが、結婚や同棲には経済的に助け合う効果があることを考えると、単純に世帯人数で割るよりははるかに妥当な気がします。
この考え方にしたがって、たとえば、年収300万円の男性と年収300万円の女性の結婚を考えると、
(300+300)÷√2=424
となるから、1人暮らしで年収424万円の人と同じ経済レベルで生活することが可能になると言えます。経済面にかぎっても、生活の質の向上は明らかです。
また、たとえば、年収500万円の女性について考えてみましょう。彼女は「自分の経済レベルを落としたくないから、結婚相手には、自分と同等かそれ以上の収入のある人がいい」という希望条件を持っています(男性でこのような希望条件を持つ人はあまりいません。理由は上記の通り)。
彼女はまさに「世帯人数」で割るという発想をしているわけですが、それを「世帯人数の平方根」で割るという発想に切り換えると、
(x+500)÷√2=500
⇔x=200
つまり、経済レベルを落としたくないということなら、相手男性に求める年収は200万円でいいのです。
お金がないから結婚できない、というのは、1人暮らしの経済効率(の悪さ)を基準に考えてしまうからなのかもしれません。もちろん、一番の問題は「男は外で稼ぎ……」の呪縛ですが。
このところ毎週のように成婚カップルが誕生しています。彼らの和気あいあいとした様子を見ていると、パートナーのいる人生の方が断然楽しい、ということがひしひしと伝わってきます。仲良く一緒にいられることがなによりで、経済的な問題は二の次。どうせそうなるのだから、こまかな拘泥は捨てた方がいい。そんな思いを強くする今日この頃です。